サウンドトラック

サウンドトラック 上 (集英社文庫)

サウンドトラック 上 (集英社文庫)

サウンドトラック 下 (集英社文庫)

サウンドトラック 下 (集英社文庫)

古川日出男は2冊目です。「沈黙」には唖然とするほどの衝撃を受けました。今、そのときの感想を読み直したら何書いてるかわからないけど。混乱してたってことで。
■それで今も混乱してます。途中まではまぁ良いけど普通かなぁと思って読んでたけれど、最後がすごい。一番本当の最後のところで、もう意味が分からないんだけど、突然泣きそうになった。悲しくも無いし当然嬉しくも無いはずなのに。
■はっきり言って私にはこの文章は何だか分かりません。すごく巨大で意味不明でヌルヌルしてるモンスターか何かを目の前にした気分。小さな揺れから始まったものが物語りの終わりに向かって収束するどころか限りなく膨張していく。何事も説明されずただそこに在る。暴力的だけど痛くない。説得されてないのに納得する。そんな感じ。いやどんな感じか伝わらないけど。この雰囲気を文章にするには私では力不足です。
■設定も舞台も近未来SF的だけど、あまりそういう枠には入ってない。それが気持ち悪い感じだったが、下巻の最後に載ってる作者の「文庫化のために、ただひとつのサウンドトラック」を読んで納得した。一部書かせてもらうと以下のような部分。

これは「疾走小説」だ。単行本の刊行が二〇〇三年だったから“近未来小説”とも受け止められたが、違う。こうして文庫版が出て、いずれ読者はこれを“近過去小説”として読むだろう。その姿勢は、正しい。

■これにすごい納得。作家が言ってるんだから当たり前なんだけど。最後を読んで受けたものもそこあたりで説明がつきそう。明確にじゃなくてなんとなく。
■そして、私はやっぱりこの古川日出男の文章が好きです。上の引用もそうなんだけど、句読点の位置まで好きです。描かれる物語以前にそっちに惚れてる気もする。
■惜しむべくは。そこが魅力の気がするので微妙なとこなんですが、もう少しだけ説明が欲しい。後半の狂い方がちょっと危なすぎる。もう少し、何か、救いが欲しい。です。それはこの物語の崩壊かな。
■さらに言えば、「沈黙」から受けたものがあまりに大きかったからあれを超えて欲しいと思って読んでた自分の期待がいけない気もします。今の感覚としては超えられなかったことにしたいです。
■もうひとつ。内容とは関係ない話。私はこの表紙を描いてる田島昭宇の絵が好きですが、この場合は相応しくないと思う。もっと泥臭い感じをイメージしました。

★★★★☆