沈黙/アビシニアン

沈黙/アビシニアン (角川文庫)

沈黙/アビシニアン (角川文庫)

■書店にて村上春樹好きの私を惹きつけるPOPがついてたので買ってしまいました。下の「ベロニカは死ぬことにした」と並行読みをしてたのですが、途中でこっちが面白くなりずっとこっちばかり読んでました。が、あまりの吸引力に怖くなり、幸い2編入ってたので途中でお休みし、下が終わってから後半の「アビシニアン」を読みました。
■「沈黙」がヤバイです。久しぶりか初めてかもしれない、程に凄い本でした。一歩離れて物語を見てるはずのこっちが世界に巻き込まれる感覚でした。目が回るような。っていうか目が回る自分を上から見てるような気がしてきます。
■そう本当に、私はこの文章が怖いのかもしれません。音楽に関する話だけれど、音の聞こえる文章ではない。でも沈黙は聞こえる。綺麗な言葉遊びしすぎの文章かもしれない、けれどそれが凄まじく物語と融合しています。不思議な化学変化を見ているような気分で文章そのものを読むことを楽しめました。情景が本当に見える。混乱するほど。音だけが見えない。と。でも、表現はできないんだけど、ルコの音楽は分かる気がします。その感覚が気持ちいい。
■物語自体が多重構造になってて相等に不思議なのだけれどそれが心地よいです。これを書ける人間って何だろう?って正直思っちゃいました。想像できないほど頭が良いのかな。びっくりするくらいしっかりした真実味のある文章です。
■ちょっとネタバレになりますが、自分のルコを聞く場面が凄いです。これは生命、そうなんだろう。なんていうか、電車で読んでて、街に降りたときヤバイほどの焦燥感を感じました。そしてこの文章はヤバイと思いました。降りたのが渋谷じゃなくて良かった…あの人ごみなら発狂してたかも、なんて。そんな文です。
■ただ、そこまでが凄すぎるからか、ラストはちょっと弱いかも。飽和しきったものがすーっと消えてしまうような終わりです。悪くは無いんだけどもっと別に何かあるんじゃないかなー。
■「アビシニアン」の方は「沈黙」に比べると普通な印象。これもつまらなくは無いけれど、前のショックが大きすぎたからなぁ。ちょっと後半が暴走しすぎていて理解がついて行けませんでした。個々の話は面白いんだけど、全体の座りが悪い気がします。
■とにかく「沈黙」が凄い!ってことで。
★★★★★