薬指の標本

薬指の標本 (新潮文庫)

薬指の標本 (新潮文庫)

小川洋子3冊目です。
■怖かった。これに尽きます。しかもホラーな怖さではなく、内側からザワザワするような人間への怖さ。こういうのが一番怖いと思います。なかなか前に進む勇気が無くていつもよりも時間がかかってしまいました。
■特に前半のタイトル作のほうが怖いです。怖くて良いです。静かな雰囲気の中で語られる異常な物語といった感じ。この異常性が良い。何か、本当にサイダーの中で溶けてしまうような、砂に埋もれていくような。しかもその恐怖ははっきりと示されるわけではなくて状況証拠だけがあって、それで想像してしまう結果の恐怖というのが、さらに怖くて素敵です。
■後ろに入っている六角形の小部屋は始めのあたりの描写がちょっと人間的に汚くて嫌だったのですが、最後まで読んだら良かったです。沈黙はすべてに対して救いを差し伸べるかもしれませんが、沈黙するためには雄弁も必要で、六角形の小部屋も必要なのでしょう。キリスト教の懺悔を思わせる感じでした。でも誰も聞いていない。このアンバランスさというかが良かったです。
小川洋子は何で今まで読まなかったの?というほどに良いのですが、読むのにパワーが必要でなかなか連続しては読めません。充電したらもう1冊くらい読もうと思います。
★★★★☆