ロボットには夢が詰まっている気がする。アトム世代じゃないけれど

ハル (文春文庫)

ハル (文春文庫)

■何となく買った本ですが、面白かったです。瀬名秀明は結構前に「パラサイト・イヴ」にはまった記憶がありますが、それ以来数年ぶりです。
■文体は極々普通で際立って目立つ言い回しや言葉があるわけでもない。けれど、題材の面白さと物語の丁寧さで惹きこまれました。近未来のロボットをテーマにした連作短編の形式の本ですが、どれも良いです。特にゾクッとしたのは「ハル」と「亜希への扉」。最近恋愛ものに弱いかもしれない。最後の「アトムの子」の話は私自身ほとんどアトムを観たことが無く、恥ずかしながらアトムの主題歌と言われて曲が浮かんでこないのであまり共感できなかったです。物語としては素敵なだけにちょっと勿体無い。
■何と言うか。私が工学部だからかもしれませんが、ロボットはやはり「夢」であり「憧れ」であると思うのです。それが事実とは違っても。人間じゃないのに人間の形をしていて、人間の思考をする存在。それがどういうことなのか正直わかりませんが、そういう存在の可能性を追うっていうのが「夢」なのです。私は研究者では無いしそっちに進む予定も無いのですけれども。
■しかし、そこまで行っても中心にあるのは人間なんだろうなぁと思います。この本も、結局は人間、というかロボットも含め人間的な精神。そういうものに人は動かされる、だから面白いし哀しい。ロボットに心を持たせるということは人間的なブレや曖昧さや哀しさを(死も、かな…)も押し付けるということで、それは果たして双方にとって正しいことなのか。映画や本や色々なもので数限りなく繰り返されてきた問いですが、まだ私の納得する答えは見つからない。そんなことを久しぶりに思い出しました。…最近現実に追われていたからなぁ。たまには夢を観ないと。
★★★★☆