疾走

疾走 上 (角川文庫)

疾走 上 (角川文庫)

疾走 下 (角川文庫)

疾走 下 (角川文庫)

■並ぶと怖い表紙です…。本屋の「カバーつけますか?」の言葉には迷わず「はい」でした。いや、しかし、それ以上にこの人の文章は怖いです。私はこの重松清より怖い文を書く人を知りません。…これ以上があっても知りたくない。
ナイフ (新潮文庫)を結構前に読んだことがありまして。これが余りに恐ろしかったので、重松清の本は見かけても買わないようにしていました。よく見るのですが。怖いというか、痛いというか。精神的に辛いのです。
■今回も、まぁその期待というか観念というかには違わず、非常に怖い本でした。人間の汚さや弱さや影がクッキリと姿を映されています。そして、写るものは必要以上に化け物です。またさらに、この本は語り口も怖い。「お前」と言われ続けることで、自分自身の一部分を見ているような気分になる。語り手が姿を現すラストは見事でした。本当にそこまでは辛くて長いのですが、最後の最後、ほんのちょっと救われた気がする。本当に悲しいけれど、少しだけ。人間は「ひとり」であるが「ひとり」では生きられなくて、「ひとり」をどう処理するか、結局主題はそこになるのかもしれないが、こういう答えの出し方はひどく潔いと思いました。たまにしょうも無く人を抱きしめたくなる私は危ないですか?大阪に初めて行ったときの主人公の気持ちがわかりすぎる。
■こういう本を目の前にすると何を書いても舌足らずな気がする。
★★★★★