アラビアの夜の種族

アラビアの夜の種族〈1〉 (角川文庫)

アラビアの夜の種族〈1〉 (角川文庫)

アラビアの夜の種族 II (角川文庫)

アラビアの夜の種族 II (角川文庫)

アラビアの夜の種族 III (角川文庫)

アラビアの夜の種族 III (角川文庫)

最近の好きな作家の古川日出男。これを読んだら読むものが無いので、ちょっと躊躇しつつでも読みたいので買ってしまった。
不思議な文です。これは翻訳です、と銘打って始まる本当に翻訳的な文。最後まで翻訳なのか?と半分信じつつ読んで、読み終わってネットで調べてああ違うのか、と。あまりにも徹底されてて怖いくらい。
いや、文章自体の何かも怖いんですが。やっぱり古川日出男は凄い。テーマのひとつが本の持つ魔力的な面だと思うのですが、それをまた本で読んでいる感が、ちょっと「はてしない物語」を読んだときのような(本の描画の部分で慌てて表紙に戻ったのは良い思い出)。本好きとしてはこういう構造の文は好きにならざるを得ませんです。後半の本に対する文の一つ一つにドキドキさせられた。
構造と言えば、何重にもなっている物語の線が見事でした。よくこんなの書けるなぁと正直に感服する。一番内側がファンタジーで、その上に物語があって、さらにその上に現実があって、さらにその外側に自分という読者がいる。部分部分を読むときはそれぞれの階層に下りてって迷ったり感嘆したりしながら体験してる(正に阿房宮的に)。この構造のお陰でファンタジーの違和感が無いというか、とても魅力的になってます。何度も書くけどやっぱり凄い。
ただ、問題が…。長い。いや…いいんだけどね。この長さはきっと必要十分だけど。でも読むととてもパワーを持っていかれてしまうような気がします。それに。この世界に入り込まなきゃ読めないので、そんなにまとめて時間が取れないとブツブツ切りながら読むことになってしまって、とても勿体無い。もうこの作品の中の人物のように全てを捨てて本の中に篭りたいくらいでした。でもそんなことは出来ないので電車の中でチマチマ読んでたんですが。
そうそう好きな一節を残しておきます。前述の本に対する文章。

書物とはふしぎです。一冊の書物はいずこより来るのか?その書物を紐解いている、読者の眼前にです。読者は一人であり、書物は一冊。なぜ、その一冊を選んでいるのでしょう。ある種の経緯で?ある種の運命で?なぜ、その一冊と――おなじ時間を共有して――読むのでしょう?読まれている瞬間、おなじ時間を生きているのは、その一冊と、その一人だけなのです。
一冊の書物にとって、読者とはつねに唯一の人間を指すのです。

しびれる文章だ。

★★★★★