村上龍について

空港にて (文春文庫)

空港にて (文春文庫)

村上龍には馴染めない、理解できない、という文を何度か書きましたが前言撤回。「空港にて」とても面白かったです。何気ない風を装って隅々まで計算し尽されたかのような文章です。
■正直、村上龍はもう買うまいと思ってたのですが、この表紙の写真に惹かれたのと、帯の「空港にては僕にとって最高の短編小説です。by村上龍」という言葉を見て、これで面白くなかったら二度と買うまいと思って(笑)買ってみました。コンビニから始まり色んな場所の「にて」が続くのですが、それぞれが描写をしてるのに過ぎないにも関わらず、ゾクゾクさせるような何かがあります。緊張感のある一瞬の状況の連続が、何と言うか、普段人間が生きて考えていることそのものを、ちょうど良い具合に表現している気がします。視点の定まらなさというか。人間の目って実際のところ焦点を合わせられるところはとても小さいそうです、それで目はちょろちょろと動いて空間全体を捉える、そんなことを思い出しました。
■中でも、やはり凄いのが「空港にて」。この一言が凄い。

そんなにお金を使ってだいじょうぶなのかと聞きたかったが、そのことも聞かなかった。相手が意志と好意でやっていることについて、どうしてそんなことをするのかと聞くのは甘えだ。あなたが好きだからやっているんだよ、と言って欲しいからそう聞くのだ。幼児と一緒にいるとそのことがよくわかる。

■そうか、と思いました。難しい言葉は使っていないけれど、的を突いてます。読み心地が良くて、それでいて真実の一部を見ている。凄いなぁと思いました。
■そして。あとがきにあるように「希望」を書いてるのが良い。読んでいて救われる。この感覚が欲しかったから。
■もう一つあとがきについて。「この国には何でもある。本当にいろいろなものがあります。だが、希望だけがない」と中学生が言う本に惹かれ「希望のエクソダス」を買いました。今読んでます。
★★★★★