誰か

誰か―Somebody (文春文庫)

誰か―Somebody (文春文庫)

宮部みゆきの新作。現代ものはちょっと久しぶりな気がしたので期待して読みました。
安定して面白かったです。さすが。ミステリ部分を上手く引っ張りながらも人がそれぞれみんな魅力的で好きになってしまう。とくに主人公の男と妻と父がとても魅力的です。なんとなく、皆、粋です。最後はちょっと悲しい展開なのですが、それも含め良いです。語る部分と語らない部分の描き分けがいいな。
それから、口に毒がある、という母親の描写が面白い。私の母もそうだね…。離れて暮らしていると傷つけあわずに済みます。何で仲は悪くないのに喧嘩になるのかと思ってたんだけど、こういうことかもしれません。自分も気をつけようと思ったです。
最後に印象に残った一節を。

照明の落とす影が、猛禽のような義父の目鼻立ちを一段と鋭く見せていた。それでいて、義父はとてもくつろいでいるようにも見えた。とても親しく(ちかしく)見えた。
一瞬、私はぞっとした。
(中略)
人間はそういうものだ。必要に迫られれば何でもやるんだ。義父はひとかけらの粉飾もなく、私にそう言っているのだ。問題は、それを背負っていかれるかどうかだけだ、と。
私はその語りかけを読み取り、そしてそれを親しく感じる。
私がそう感じると確信しているから、義父は微笑を浮かべているのだ。

★★★★☆