ガールズ・ブルー

ガールズ・ブルー (文春文庫)

ガールズ・ブルー (文春文庫)

■なんとなく手に取りました。表紙の雰囲気とオビの力。あさのあつこは結構前にバッテリーの1巻を読んだんだけど、どうもいまいち照れてしまってあまり素直に楽しめなくて、それ以降は読んでいません。
■これはとても良かったです。さらりとした乾いた空気感がとても良い。もう戻らない高校生17歳への憧憬そのもののような。何か特別なわけじゃない、でもこの当たり前さが良いって素敵なことだと思います。
■文章も読みやすくて、今日の夕方に買ったのに空き時間に読んでたらすぐ終わっちゃいました。もっと読んでいたかったけど、これくらいが良いのかもしれない。気軽で手に取りやすいです。
■私は進学校と呼ばれるような高校に通ってたので、彼女たちとは全然違う環境の高校時代だったんだけど、何て言うか、すごい分かるような気がしました。何気ない会話が生き生きしてて、瑞々しくて、素直だけどかっこつけてて、あるあるって思ったり一緒に笑ったりできるような。高校生の、上手く言葉に出来ない何か、が表現されていると思います。今私はもう高校生じゃないので、過去を振り返って思う高校生だった何か、かもしれませんけど。ひょっとしてこの本は高校生の本でなくて、高校生を振り返る本なんじゃないかと思いました。憧憬って言葉がぴったり。
■それを引っ張っているのが、主人公とその友達たちのキャラクターだと思います。問答無用にこいつら良い奴です。こいつって言いたいし、奴って言いたい、そんな感じの良い奴ら。本当に生きてて会話してるような感じがしました。自分とは違うんだけど素直に投影しながら読めるとでも言うか、そいうキャラクター作りは見事です。
■それからいくつか印象に残るくだりがありました。その中の1つをメモ。

あたしも綾菜も勉強は嫌い、苦手なことを克服する努力も苦手、真摯に懸命に何か一つに打ち込むこともできない。いいかげんで、怠け者で、中途半端だ。でも自信はあった。あたしたちは、何とかやっていけるという自信だ。なのに、あの日の綾菜は、心細げで自虐的だった。祭りの夜の、仕方ないかと笑った強さはどこにもなかった。ここでも、振幅だ。揺れる。あっちとこっち。向こうとこちら。振り子が大きく行き来する。たった一日の一夜の一時間の間に、何度も揺れ惑う。たぶん今頃、綾菜は、高校への未練などさらりと忘れて、弁当をいくつも運んでいるんだろう。
(ガールズ・ブルー、あさのあつこ、pp.182-183)

■なんでもない文章です。でもこのなんでもなさが掛け替えない。これが高校生だと青春だと一番思った。そしてそう言われて枠に嵌められるのを嫌がって。やっぱり高校生って良いなぁ。残念だけど、私はもう友達と海に行って好きな人の名前を夕日に向かって叫ぶこともできないし、友達と吹雪の雪道を歩いていて見つけた自動販売機の紅茶家伝に本気で救われたと思うことも、それどころか休み時間にだらだらと皆でトイレに並ぶことすらできないのだ。そこまで考えてちょっと寂しくなりました。この本はとても良いけどその分ちょっとだけ苦さが残ります。
■あ、あと。関係無さ気だけど。私は犬が嫌いですが、この本の中の犬の描写はすごく良かった。犬に好感めいた感情を持つのは珍しいので、書き残しておきます。

★★★★☆